Tummy Shield は車の座席に敷いてベルトの位置を替え妊婦の下腹部にシートベルトの圧迫がかからないようにするための補助クッション。本体に金属フックを備え、腰ベルト部分を金属フックに通すことで腰の代りに両大腿部を固定する。

タミーシールド

普段より気をつけるからといって妊婦が妊娠期間中に交通事故に遭わないという保証はない。車に乗ったら苦しくてもシートベルトはするべきだ。2011年4月に日本産科婦人科学会が発行した、産婦人科医師向けの「産婦人科診療ガイドライン---産科編2011」においても学会として妊婦のシートベルト装着を推奨度Aで推奨している。
(クリニカルクエスチョン)
妊娠中のシートベルト着用について尋ねられたら?
(アンサー)
「斜めベルトは両乳房の間を通し、腰ベルトは恥骨上に置き、いずれのベルトも妊娠子宮を横断しない」という正しい装着により交通事故時の障害を軽減化できると説明する。(A)

〈解説〉
本邦の交通事故による死傷者数は依然として多く、その中に含まれる妊婦の数も相当数が見込まれる。しかしながら、本邦の人口統計・警察統計ともに妊婦の交通事故死傷者数を明らかにしていないので、実態は不明である。日本では年間約1~7 万人の妊婦が交通事故により負傷し、約千人から1 万人の胎児が流・早産し、年間40 人程度の妊婦が死亡するという試算もある(1,2)。 一方、平成17 年度の交通事故統計を利用し、乗車中の事故に関して以下のような試算(涌井之雄会員からの私信)も可能である。
平成17 年妊婦交通事故負傷者(歩行中によらない)推定
=平成17 年交通事故負傷者総数(16~49歳)×(1-歩行中の事故発生の割合)×男女比率×妊娠月数/1年×平成17 年出生数/平成17 年再生産年齢人口(15~44歳)=628,674×0.93×0.5×9/12×1,062,530/24,042,000=9,690
平成17 年妊婦交通事故死者(歩行中によらない)推定
=平成17 年交通事故死者総数(16~49歳)×(1-歩行中の事故発生の割合)
×男女比率×妊娠月数/1年×平成17 年出生数/平成17 年再生産年齢人口(15~44歳)=2,375×0.694×0.316×9/12×1,062,530/2,404,2000=17
また、米国の報告(3-5)(妊婦の6~7%が妊娠中に外傷を負い、その約2/3が交通事故によるとされ、年間約1,500~5,000の胎児が交通事故で死亡している)を参考にした推計値では、本邦の年間妊婦交通事故負傷者数5,000~7,000人、そのための妊婦死亡数20~40人、胎児死亡は160以上、とされる(6)。
交通事故による胎児死亡の50~70%は胎盤剥離、20~40%は母体の重篤な状態ないしは死亡、10%以下は子宮破裂に起因する(6)。妊婦のシートベルト着用を積極的に推奨することは母児を守ることに寄与すると考えられている(7)。実際、胎児の予後は母体の重症度と関連し、多変量解析では、エアバッグ装備の有無にかかわらず、シートベルトの装着の有無が胎児の予後と関連していた(5)。妊婦ダミーを用いた衝突実験(8-11)ではシートベルト着用により子宮内圧上昇が抑制される。妊婦が運転席に座った場合、ハンドル下端から腹部までの水平距離は非妊婦に比して
約10cm短い(12)ため、シートベルト着用により腹部打撲・子宮内圧上昇を防止する必要がある。
本邦でのシートベルト着用義務規定における妊婦の取り扱い文言は一部曖昧で罰則規定がないなど解釈・運用の混乱がみられた。1970 年代の腰ベルト一本のみの二点固定式シートベルトの場合には、事故衝撃時の母体強度屈曲により妊娠子宮破裂が懸念されたが、現在の三点固定式シートベルトの正しい装着は母児の安全性を高めると考えられている。警察庁は2008年に「交通の方法に関する教則」を改訂し、自動車に乗車する妊婦は原則として正しく3点式シートベルトを着用するべきであると明記した。
産婦人科医は、妊婦に対して「斜めベルトは両乳房の間を通し、腰ベルトは恥骨上に置き、いずれのベルトも妊娠子宮を横断しない」という正しいシートベルト着用法を指導することが望ましい。

妊娠中のシートベルト着用ポスター

産婦人科医が妊婦のシートベルト着用をより強く推奨することにより、本邦母体死亡総数および胎児死亡数を減らせる可能性が高い。しかし、「不慮の事故を含む外因」による妊婦死亡は本邦妊産婦死亡統計に含まれていないので、本邦の妊娠関連死亡(Pregnancy-related death:ICD-10, WHO, 1990)数は不明である。
文献
1. 村尾寛、金城国仁、他: 妊婦交通外傷43例の臨床的検討.日本産婦人科学会誌 51(5): 293-297, 1999 (III)
2. 村尾寛、仲本哲、他: 妊婦交通外傷80例の臨床的検討.日本産婦人科学会誌 52(11): 1635-1639, 2000 (III)
3. Pearlman MD: Motor vehicle crashes, pregnancy loss and preterm labor. Int J Gynecol Obstet 1997; 57: 127-132 (III)
4. Weiss HB, Stromeyer S: Characterics of pregnant women in motorvehicle crashes. Inj Prev 2002; 8: 207-210 (II)
5. Klinch KD, Flannagan CA, Rupp JD, et al. Fetal outcome in motor-vehicle crashes: effects of crash characteristics and maternal restraint. Am J Obstet Gynecol 2008; 198(4): 450 e1-9 (III)
6. Hitosugi M, Motozawa Y, Kido M, et al. Traffic injuries of the pregnant women and fetal or neonatal outcomes. Forensic Science International 2006; 159: 51-54 (II)
7. Obstetric aspects of trauma management. ACOG Educational Bulletin No.251. Washington, DC. ACOG, 1998 (ACOG Educational Bulletin)
8. Chames MC, Pearlman MD. Trauma during pregnancy: outcome and clinical management. Clin Obstet Gynecol 2008; 51(2): 398-408 (II)
9. Motozawa Y, Hitosugi M, Tokudome S. Analysis of seating position and Anthropometric parameters of pregnant Japanese drivers. Traffic Injury Prevention 2008; 9: 77-82 (II)
10. Rupp JD, Klinich KD, Moss S, et al. Development and Testing of a Prototype Pregnant Abdomen for the Small-Female Hybrid III ATD. Stapp Car Crash J. 2001; 45:61-78. (II)
11. Motozawa Y, Hitosugi M, Tokudome S. Analysis of pregnant dummy responses during automotive rear collisions. Review of Automotive Engineering. 2008: 29; 201-205. (I)
12. Motozawa Y, Hitosugi M, Abe T, Tokudome S. Assessment of the effects of seatbelts worn by pregnant female drivers during low-energy vehicle collisions. Am J Obstet Gynecol, accepted in press.



妊婦のシートベルト着用を推進する会
これは上記の方法で「正しく」シートベルトを装着していて、実際に交通事故にあった方の写真です。

事故参考写真

妊娠35週で正面衝突事故に遭遇しました。
左鎖骨部分と右側腹部に、シートベルトの強い圧迫による皮下出血がみられます。
また、右上腹部にはシートベルトの圧迫痕がスジ状にみられます。
医学的には不全脾臓破裂を起こしましたが、シートベルトの「正しい」装着により、お腹の赤ちゃんはいたって元気でした。頭部・顔面も全く無キズでした。
事故の一ヶ月後に、ごく普通に赤ちゃんを出産されました。

タミーシールドは5月23日発売、価格は1万5750円。少々値は張るが大切な命を守るため、妊婦さんには是非使ってもらいたい。

妊婦用シートベルト補助具 タミーシールド
妊婦用シートベルト補助具 タミーシールド